仮想通貨のウォレットを調べていると「MPC」という言葉を目にすることがあります。MPCウォレット、MPCテクノロジー…何となくセキュリティに関係していそうだけど、具体的に何なのかわからない。そんな疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
MPCとは「Multi-Party Computation(マルチパーティコンピューテーション)」の略で、仮想通貨の秘密鍵を安全に管理するための最先端技術です。CoinbaseやZenGoなど大手サービスでも採用されており、次世代のセキュリティ技術として注目されています。
この記事では、MPCの仕組みから従来のウォレットとの違い、メリット・デメリットまで、専門用語を使わずにやさしく解説します。
- MPCとは何か、基本的な仕組み
- 従来のウォレットやマルチシグとの違い
- MPCウォレットのメリットとデメリット
- MPCを採用している主要なサービス
MPCが「難しそう」と感じる理由

聞き慣れない専門用語が多い
MPCが難しく感じる最大の理由は、「マルチパーティコンピューテーション」「秘密分散」「閾値署名」など、聞き慣れない専門用語が多く使われることです。これらは暗号理論の専門用語であり、日常生活ではまず使うことのない言葉ばかりです。そのため、説明を読んでも頭に入ってこないという方が多いのではないでしょうか。しかし、難しい用語の背後にある考え方自体は、実はシンプルなものです。「大切なものを分散して保管することで、一部が盗まれても全体は守られる」という基本的な発想を理解すれば、MPCの本質はつかめます。この記事では、できるだけ専門用語を使わずに説明していきます。
数学的な暗号技術が基盤にある
MPCは、高度な数学的暗号技術に基づいています。「シャミアの秘密分散法」と呼ばれる手法や、「閾値ECDSA」といった署名方式など、その背後には複雑な数学的理論があります。こうした技術的な詳細まで理解しようとすると、確かに難解です。しかし、私たちが日常的に使っているインターネットのセキュリティ(HTTPS通信など)も、同様に複雑な暗号技術で成り立っています。それでも私たちは、仕組みを完全に理解していなくてもインターネットを安全に利用できています。MPCも同様で、「どのように安全性が確保されているのか」という概念を理解できれば、技術の詳細を知らなくても十分に活用できます。
従来のウォレットとの違いがわかりにくい
「普通のウォレットと何が違うの?」という疑問も、MPCが難しく感じる原因の一つです。従来のウォレットでは、秘密鍵という一つの大切な情報を自分で管理します。これに対してMPCウォレットでは、秘密鍵を複数の断片に分けて管理します。しかし、マルチシグ(複数署名)ウォレットも同じように複数のキーを使うため、「MPCとマルチシグは何が違うのか」という混乱が生じやすいのです。結論から言えば、どちらも「複数の情報を組み合わせてセキュリティを高める」という点では似ていますが、技術的なアプローチが異なります。この違いについては、後ほど詳しく解説します。
見えない技術なのでイメージしにくい
MPCは、ユーザーの目には見えない裏側で動作する技術です。ウォレットアプリを使っていても、「今MPCが動いている」と意識することはありません。そのため、具体的に何が起きているのかをイメージしにくいのです。例えば、ハードウェアウォレットであれば、「この物理的なデバイスに秘密鍵が保存されている」と視覚的に理解できます。しかしMPCでは、「秘密鍵の断片が複数の場所に分散されている」と言われても、その様子を目で見ることはできません。この記事では、身近なたとえ話を使いながら、MPCの仕組みをイメージしやすく説明していきます。
まだ新しい技術なので情報が少ない
MPCウォレットは比較的新しい技術であり、日本語での解説記事や情報がまだ多くありません。英語の情報は増えてきていますが、日本語で初心者向けにわかりやすく説明している記事は限られています。また、技術が新しいため、実際に使った経験を持つ人も少なく、口コミやレビューなどの実体験に基づく情報も不足しています。こうした状況が、「MPCは難しそう」「よくわからない」という印象を強めている面があります。しかし、2024年以降は大手取引所やウォレットサービスでの採用が進み、徐々に一般的な技術になりつつあります。
MPCとは何か?基本をやさしく解説
MPCの正式名称と意味
MPCは「Multi-Party Computation」の略で、日本語では「マルチパーティコンピューテーション」または「秘密計算」と呼ばれます。「Multi-Party」は「複数の当事者」、「Computation」は「計算」という意味です。つまり、「複数の当事者が協力して計算を行う技術」という意味になります。仮想通貨の文脈では、秘密鍵を複数の断片に分割し、取引の署名を行う際にそれらの断片を協力して使用する技術を指します。重要なのは、各断片を持っている当事者が、お互いの断片の内容を知ることなく、協力して計算(署名)を完成させられる点です。この「お互いの情報を明かさずに協力できる」という特性が、MPCの最大の特徴です。
秘密鍵を分散するという発想
仮想通貨ウォレットでは、「秘密鍵」という情報が最も重要です。秘密鍵があれば、そのウォレットの資産を自由に動かすことができます。逆に言えば、秘密鍵を盗まれると、すべての資産を失うリスクがあります。従来のウォレットでは、この大切な秘密鍵を一つの場所に保管していました。これは「すべての卵を一つのカゴに入れている」状態であり、そのカゴが盗まれたり壊れたりすると、すべてを失ってしまいます。MPCの発想は、「大切な卵を複数のカゴに分けて保管する」というものです。秘密鍵を複数の断片に分割し、それぞれを別の場所で保管することで、一部が盗まれても全体の安全は保たれます。
分割された断片だけでは意味がない
MPCで分割された秘密鍵の断片は、それ単体では何の意味も持ちません。これは非常に重要なポイントです。例えば、秘密鍵を3つの断片に分割したとします。そのうちの1つを誰かに盗まれたとしても、その1つの断片だけでは秘密鍵を復元することはできません。また、断片から元の秘密鍵の情報を推測することもできません。これは、パズルのピースのようなものです。100ピースのパズルがあるとして、そのうちの10ピースだけを見ても、完成した絵を想像するのは難しいでしょう。MPCの断片は、それ以上に巧妙に設計されており、一部のピースからは全体の情報を一切推測できないようになっています。
複数の断片を協力させて署名を行う
では、分割された断片をどのように使って取引を行うのでしょうか。MPCでは、取引に署名する際に、複数の断片が協力して一つの有効な署名を生成します。ただし、「協力する」といっても、断片同士がお互いの内容を共有するわけではありません。これがMPCの技術的に優れた点です。各断片は、自分の持っている情報だけを使って計算の一部を行い、その結果を持ち寄ることで、最終的な署名が完成します。この過程で、完全な秘密鍵が一箇所に集まることはありません。署名プロセス全体を通して、秘密鍵は分散されたまま保たれるため、セキュリティが維持されます。
閾値とは何か(2-of-3などの意味)
MPCでは、「閾値(いきち)」という概念が重要です。例えば「2-of-3」という設定があります。これは、「3つの断片のうち、2つがあれば署名ができる」という意味です。つまり、3つの断片すべてが揃わなくても、そのうちの2つがあれば取引を承認できるのです。この仕組みには大きなメリットがあります。まず、1つの断片を紛失しても、残りの2つで資産にアクセスできます。また、1つの断片が盗まれても、それだけでは署名ができないため、資産は守られます。このように、閾値設定により、セキュリティと利便性のバランスを取ることができます。企業用途では、より多くの断片と高い閾値(例:3-of-5など)を設定することもあります。
MPCは「金庫の鍵を複数に分けて、信頼できる人たちに預ける」ようなものです。金庫を開けるには、預けた人たちのうち一定数が集まる必要があります。一人だけでは開けられないので、誰か一人の鍵が盗まれても金庫は安全です。また、一人が鍵をなくしても、他の人たちの鍵があれば金庫を開けることができます。
従来のウォレットとMPCウォレットの違い
シングルキーウォレットのリスク
従来の一般的なウォレットは「シングルキーウォレット」と呼ばれ、一つの秘密鍵ですべてを管理します。MetaMaskなどのソフトウェアウォレットや、多くのハードウェアウォレットがこのタイプです。シングルキーウォレットのリスクは明確です。秘密鍵やシードフレーズが一箇所にまとめて存在するため、それが漏洩すると資産をすべて失います。フィッシング攻撃で秘密鍵を入力してしまった、マルウェアに感染してシードフレーズを盗まれた、紙に書いたシードフレーズを誰かに見られた…こうした事故は実際に多く発生しています。また、秘密鍵やシードフレーズを紛失すると、資産にアクセスする手段がなくなります。この「単一障害点」の問題が、シングルキーウォレットの最大の弱点です。
マルチシグウォレットとの比較
シングルキーの問題を解決するために生まれたのが「マルチシグ(マルチシグネチャ)ウォレット」です。マルチシグでは、取引に複数の秘密鍵が必要になります。例えば「2-of-3マルチシグ」であれば、3つの秘密鍵のうち2つの署名がないと取引を実行できません。MPCと似ているように見えますが、大きな違いがあります。マルチシグでは、各参加者が完全な秘密鍵を個別に持っています。そして、取引を行う際には、それぞれの秘密鍵で別々に署名を行い、それらを集めて一つの取引として処理します。つまり、ブロックチェーン上には複数の署名が記録されます。一方、MPCでは秘密鍵自体が分割されており、ブロックチェーン上には通常の単一署名と同じように見える一つの署名だけが記録されます。
MPCウォレットが優れている点
MPCウォレットには、マルチシグにはないいくつかの優れた点があります。まず、ブロックチェーンの種類を問わず使用できる点です。マルチシグはブロックチェーンごとに実装方法が異なり、対応していないブロックチェーンもあります。一方、MPCは署名の生成方法を変えるだけなので、基本的にどのブロックチェーンでも利用できます。次に、取引手数料の面でも有利です。マルチシグでは複数の署名を記録するため、データサイズが大きくなり手数料も高くなりがちです。MPCでは単一の署名に見えるため、通常と同じ手数料で済みます。また、プライバシーの面でも優れています。マルチシグはブロックチェーン上の記録から「複数人で管理している」ことがわかりますが、MPCではそれが外部からはわかりません。
ハードウェアウォレットとの関係
ハードウェアウォレットは、秘密鍵をオフラインの物理デバイスに保管することでセキュリティを高めています。LedgerやTrezorなどが有名です。では、MPCとハードウェアウォレットはどちらが安全なのでしょうか。実は、これらは対立する概念ではなく、組み合わせることも可能です。例えば、MPCの断片の一つをハードウェアウォレットに保管し、別の断片をクラウドに保管するといった構成が考えられます。実際、最新のセキュリティソリューションでは、こうした組み合わせが採用されています。MPCはあくまで「秘密鍵の管理方法」であり、その断片をどこに保管するかは別の問題です。ハードウェアウォレットの物理的なセキュリティとMPCの分散セキュリティを組み合わせることで、より高い安全性を実現できます。
カストディアルとセルフカストディの違い
MPCウォレットを理解する上で、「カストディアル」と「セルフカストディ」の違いも重要です。カストディアルウォレットは、取引所などの第三者が秘密鍵を管理するウォレットです。ユーザーは実際の秘密鍵を持たず、サービス提供者を信頼して資産を預けています。セルフカストディは、ユーザー自身が秘密鍵を管理するウォレットです。MPCウォレットには両方のタイプがあります。企業向けのMPCソリューションでは、企業とサービス提供者がそれぞれ断片を持つ「共同カストディ」の形態もあります。ZenGoのような個人向けMPCウォレットでは、ユーザーが一部の断片を持ち、サービス提供者が別の断片を持つハイブリッド型が多いです。どのタイプを選ぶかは、セキュリティ要件や利便性の優先度によって判断することになります。
MPCウォレットのメリット
秘密鍵の漏洩リスクを大幅に低減
MPCウォレットの最大のメリットは、秘密鍵の漏洩リスクを大幅に低減できる点です。従来のウォレットでは、秘密鍵やシードフレーズが一箇所に存在するため、それが盗まれると終わりでした。しかしMPCでは、秘密鍵自体が完全な形で存在することはありません。生成から使用まで、常に分散された状態が保たれます。攻撃者がウォレットの資産を盗むためには、複数の場所から複数の断片を同時に入手する必要があります。これは単一の秘密鍵を盗むよりもはるかに困難です。例えば、ユーザーのデバイスにマルウェアが侵入しても、そこにあるのは断片の一部だけであり、それだけでは資産を動かすことはできません。このように、MPCはセキュリティの根本的な改善をもたらします。
シードフレーズを覚える必要がない
従来のセルフカストディウォレットでは、12個や24個の英単語からなる「シードフレーズ」をユーザーが安全に保管する必要がありました。このシードフレーズを紙に書いて金庫に保管したり、金属プレートに刻印したりと、その管理には大きな負担がありました。しかも、シードフレーズを紛失したり、誰かに見られたりするリスクは常につきまといます。MPCウォレットの多くは、ユーザーがシードフレーズを管理する必要がない設計になっています。秘密鍵の断片は自動的に安全な方法で保管され、ユーザーは通常のパスワードや生体認証だけでウォレットにアクセスできます。これにより、仮想通貨の管理に対する心理的なハードルが大きく下がります。初心者にとっては特に大きなメリットといえるでしょう。
紛失時のリカバリーが可能
従来のセルフカストディウォレットでは、シードフレーズを紛失すると資産へのアクセス手段が完全に失われていました。これは「仮想通貨の自己管理」の大きなリスクとして認識されてきました。MPCウォレットでは、この問題に対する解決策も提供されています。閾値の設定により、例えば3つの断片のうち2つがあれば復旧できるため、1つの断片を紛失しても資産にアクセスできます。また、多くのMPCウォレットサービスでは、ソーシャルリカバリーや代替の認証方法を組み合わせた復旧機能を提供しています。例えば、信頼できる友人や家族を「リカバリーパートナー」として設定し、本人確認を経て復旧できる仕組みなどがあります。この柔軟なリカバリー機能は、MPCウォレットの大きな魅力の一つです。
どのブロックチェーンでも使える
マルチシグウォレットはブロックチェーンごとに実装方法が異なり、すべてのブロックチェーンで利用できるわけではありませんでした。一方、MPCは署名の生成方法を工夫する技術であり、ブロックチェーン側に特別な対応は必要ありません。そのため、Bitcoin、Ethereum、Solanaなど、ほぼすべての主要なブロックチェーンでMPCウォレットを利用できます。新しいブロックチェーンが登場しても、標準的な署名アルゴリズムを使用していれば、MPCウォレットで対応できます。これは特に、複数のブロックチェーンで資産を管理している人にとって大きなメリットです。一つのMPCウォレットで、さまざまなブロックチェーン上の資産を安全に管理できます。
企業のセキュリティポリシーに適合しやすい
企業が仮想通貨を管理する場合、個人とは異なるセキュリティ要件があります。例えば、「一人の従業員の判断だけでは大きな金額を動かせない」「承認フローを設定したい」「監査に対応できる記録を残したい」といった要件です。MPCウォレットは、こうした企業向けの要件に適合しやすい設計になっています。断片を複数の部門や役職者に分散させることで、内部不正のリスクを軽減できます。また、誰がいつ承認に参加したかの記録を残すことも可能です。実際に、多くの機関投資家や仮想通貨関連企業が、MPCソリューションを採用しています。数十億ドル規模の資産を管理する企業が信頼を寄せている点は、MPCの安全性を示す一つの証拠といえるでしょう。
MPCウォレットのデメリットと注意点

サービス提供者への依存が生じる
多くのMPCウォレットでは、秘密鍵の断片の一部をサービス提供者が管理しています。これは利便性とセキュリティのバランスを取るための設計ですが、一方でサービス提供者への依存が生じるというデメリットもあります。サービス提供者がサービスを終了したり、破綻したりした場合、資産へのアクセスに影響が出る可能性があります。もちろん、多くのMPCウォレットサービスでは、こうした事態に備えた復旧手段を用意しています。しかし、完全なセルフカストディ(自己管理)を望むユーザーにとっては、この点が気になるかもしれません。サービスを選ぶ際には、提供者の信頼性や、サービス終了時の対応方針を確認しておくことが重要です。
技術が複雑で理解しにくい
MPCは高度な暗号技術に基づいており、その仕組みを完全に理解することは一般のユーザーには難しいです。「よくわからない技術に大切な資産を預けて大丈夫なのか」という不安を感じる方もいるでしょう。これは正当な懸念です。ただし、私たちは日常的に、仕組みを完全に理解していない技術(インターネット、暗号通信、銀行のセキュリティシステムなど)を信頼して利用しています。MPCも同様に、多くの専門家によって安全性が検証された技術です。重要なのは、使用するサービスが信頼できる企業によって提供されているか、セキュリティ監査を受けているか、といった点を確認することです。技術自体を完全に理解する必要はありませんが、サービスの信頼性は確認しておきましょう。
対応しているサービスがまだ限られている
MPCウォレットは比較的新しい技術であり、対応しているサービスはまだ限られています。従来のウォレットやマルチシグと比べると、選択肢が少ないのが現状です。特に、日本国内で利用できるMPCウォレットサービスは、まだそれほど多くありません。また、一部のDApps(分散型アプリケーション)では、MPCウォレットとの互換性に問題がある場合もあります。標準的なウォレット接続(WalletConnectなど)に対応していれば多くのDAppsで使えますが、特殊な機能を必要とするサービスでは動作しないこともあります。ただし、大手サービスでのMPC採用は着実に進んでおり、今後はより多くの選択肢が登場することが期待されています。
オープンソースでないサービスが多い
ブロックチェーンやウォレットのセキュリティを評価する際、「オープンソースかどうか」は重要な判断基準の一つです。オープンソースであれば、コードが公開されており、誰でもセキュリティ上の問題がないか確認できます。しかし、MPCウォレットの多くは、そのコアとなる部分がオープンソースではありません。これは、MPCの実装が企業の競争優位性につながる独自技術であることが理由の一つです。オープンソースでないからといって必ずしも危険というわけではありませんが、外部からの検証が難しくなるのは事実です。この点が気になる方は、セキュリティ監査レポートが公開されているサービスを選ぶなど、別の方法で信頼性を確認することをおすすめします。
完全な分散化ではない場合がある
仮想通貨の思想の一つに「分散化」があります。中央集権的な機関に依存せず、ユーザー自身が資産をコントロールするという考え方です。MPCウォレットは従来のウォレットよりもセキュリティを向上させますが、完全な分散化という観点では妥協がある場合もあります。特に、サービス提供者が断片の一部を管理するタイプのMPCウォレットでは、ある程度の中央集権的要素が残ります。純粋な分散化を重視するユーザーにとっては、この点がデメリットに感じられるかもしれません。ただし、セキュリティと利便性のトレードオフとして、多くのユーザーにとってはMPCの方がバランスが良いと判断されています。自分にとって何が最も重要かを考えて、ウォレットを選択することが大切です。
MPCを採用している主要なサービス
ZenGo(ゼンゴー)の特徴
ZenGoは、個人向けMPCウォレットの代表的なサービスです。2018年にイスラエルで設立され、MPCを活用した使いやすいウォレットとして注目を集めています。ZenGoの最大の特徴は、シードフレーズが不要な点です。ユーザーは顔認証や3D生体認証でウォレットにアクセスでき、復旧時にもシードフレーズを使いません。代わりに、3つの独立した認証要素を組み合わせたリカバリー機能を提供しています。対応している仮想通貨も豊富で、Bitcoin、Ethereum、およびEthereumベースのトークン、その他多数のブロックチェーンに対応しています。また、ウォレット内で直接仮想通貨の購入やスワップ(交換)ができる機能も備えています。日本語には対応していませんが、直感的なインターフェースで使いやすいと評判です。
Coinbaseの法人向けMPCソリューション
米国の大手仮想通貨取引所Coinbaseは、機関投資家向けにMPCベースのカストディサービスを提供しています。Coinbase Primeというサービスの一部として、MPCテクノロジーを活用した高度なセキュリティ機能を備えています。Coinbaseのソリューションは、大規模な資産を管理する企業や機関投資家向けに設計されており、コンプライアンス対応、監査機能、カスタマイズ可能な承認フローなどの機能を備えています。世界中の多くの機関投資家がCoinbaseのMPCソリューションを利用しており、管理資産は数千億ドル規模に達しています。個人向けのサービスではありませんが、業界大手がMPCを採用していることは、技術の信頼性を示す一つの指標といえるでしょう。
Fireblocks(ファイアブロックス)の企業向けサービス
Fireblocksは、企業向けデジタル資産管理プラットフォームの最大手の一つです。MPCテクノロジーを核としたサービスを提供しており、世界中の1,800以上の機関が利用しています。Fireblocksの特徴は、MPCに加えて、TEE(Trusted Execution Environment)と呼ばれるハードウェアレベルのセキュリティも組み合わせている点です。これにより、非常に高いセキュリティレベルを実現しています。また、DeFiプロトコルへの接続、NFTの管理、トークン化資産の発行など、幅広い機能を提供しています。取引所、ヘッジファンド、銀行、決済企業など、さまざまな業種の企業が Fireblocksを採用しています。個人向けではありませんが、企業がMPCを選択する際の主要な選択肢となっています。
Partisia Blockchain(パーティシアブロックチェーン)
Partisia Blockchainは、MPCテクノロジーに特化したブロックチェーンプロジェクトです。このプロジェクトは、MPCをブロックチェーンの基盤技術として活用することで、プライバシーを保護しながら分散型アプリケーションを実現することを目指しています。Partisiaの創設者たちは、25年以上にわたってMPC技術の研究開発に携わってきた専門家です。そのネイティブトークンは「MPC」という名称で、複数の取引所で取引されています。Partisia Blockchainは、MPCを単なるウォレット技術としてだけでなく、プライバシー保護やデータの安全な計算など、より広い用途で活用することを目指している点が特徴的です。このプロジェクトの動向は、MPC技術の将来の可能性を示すものとして注目されています。
今後のMPC採用拡大の見通し
MPCテクノロジーの採用は、今後さらに拡大すると予想されています。背景には、仮想通貨のハッキング被害の増加と、機関投資家の参入があります。2024年以降、多くの大手取引所やウォレットサービスがMPCの導入を進めており、「MPCが業界標準になる」という見方も出ています。特に、規制の厳格化により、高いセキュリティ基準を満たすことが求められる中で、MPCは有力な選択肢となっています。また、一般ユーザー向けにも、MPCを活用した使いやすいウォレットが増えていくことが期待されています。今後、仮想通貨を始める人にとって、「最初からMPCウォレットを使う」というのが当たり前になる可能性もあります。技術の進化と普及により、より多くの人が安全に仮想通貨を管理できるようになることが期待されます。
よくある質問
Q. MPCウォレットは初心者でも使える?
MPCウォレットは、むしろ初心者にこそおすすめできるウォレットといえます。ZenGoなどの一般向けMPCウォレットは、シードフレーズの管理が不要で、通常のアプリと同じような感覚で使用できます。顔認証やパスワードでログインするだけで、複雑な設定は必要ありません。従来のウォレットでは、シードフレーズを安全に保管するという責任がユーザーにありましたが、MPCウォレットではその負担が軽減されています。もちろん、基本的なセキュリティ対策(強力なパスワードの設定、デバイスのセキュリティ維持など)は必要ですが、仮想通貨管理のハードルを大きく下げてくれる技術といえるでしょう。
Q. MPCウォレットで資産を失うことはある?
どのようなウォレットにもリスクはあり、MPCウォレットも例外ではありません。ただし、MPCウォレットでは従来のウォレットと比べてリスクが分散されています。サービス提供者が管理する断片と、ユーザー側で管理する断片があるため、どちらか一方だけでは資産にアクセスできません。サービス提供者が破綻した場合でも、多くのMPCウォレットでは復旧手段が用意されています。重要なのは、利用するサービスの信頼性を事前に確認し、復旧方法を理解しておくことです。また、フィッシング詐欺などでアカウント自体を乗っ取られるリスクは残るため、基本的なセキュリティ意識は常に持っておく必要があります。
Q. MPCとマルチシグはどちらが安全?
MPCとマルチシグは、どちらも複数の要素を使ってセキュリティを高める技術ですが、安全性の観点では一長一短があります。マルチシグは、長い歴史があり実績が豊富です。Bitcoinでは特によく使われており、その安全性は時間をかけて検証されています。一方、MPCは比較的新しい技術ですが、理論的にはより高いセキュリティを提供できるとされています。特に、「秘密鍵が一箇所に集まることがない」という点は、MPCの大きな強みです。どちらが「より安全」かは一概には言えませんが、それぞれの特性を理解した上で、用途に合わせて選択するのが良いでしょう。大規模な資産を管理する企業では、両方の技術を組み合わせているケースもあります。
Q. 日本の取引所でMPCは使われている?
日本国内の仮想通貨取引所でも、MPCテクノロジーの採用は徐々に進んでいます。ただし、個人ユーザーが直接MPCを意識して使う場面はまだ限られています。多くの場合、取引所がバックエンドで資産管理にMPCを活用しており、ユーザーは通常通りに取引所を利用するだけです。日本の取引所は金融庁の規制を受けており、高いセキュリティ基準が求められています。その要件を満たすために、MPCを含む最新のセキュリティ技術が導入されつつあります。ユーザーが自分でMPCウォレットを使いたい場合は、ZenGoなどの海外サービスを利用することになりますが、日本語対応やサポート面で不安がある方もいるかもしれません。
Q. MPCウォレットの手数料は高い?
MPCウォレット自体の利用に追加の手数料がかかるかどうかは、サービスによって異なります。ZenGoなどの個人向けMPCウォレットは、基本的な利用は無料で、取引時のネットワーク手数料(ガス代)のみがかかります。この点は従来のウォレットと同じです。ブロックチェーン上の取引手数料については、MPCはむしろ有利です。マルチシグでは複数の署名を記録するためデータサイズが大きくなり、手数料も高くなりがちです。しかしMPCでは、単一の署名と同じように処理されるため、通常と変わらない手数料で済みます。企業向けのMPCソリューションは有料サービスとして提供されていますが、個人ユーザーにとっては、MPCだから手数料が高いということはありません。
まとめ
この記事では、仮想通貨のセキュリティを高める技術であるMPC(マルチパーティコンピューテーション)について解説してきました。
- MPCは「マルチパーティコンピューテーション」の略で、秘密鍵を複数の断片に分散する技術
- 分割された断片だけでは秘密鍵の情報は得られず、一部が盗まれても資産は守られる
- マルチシグとは異なり、ブロックチェーンの種類を問わず使用でき、手数料も通常と同じ
- シードフレーズの管理が不要になるため、初心者にも使いやすい
- ZenGo、Coinbase、Fireblocksなど大手サービスが採用している
- サービス提供者への依存が生じる点は注意が必要
- 今後、業界標準の技術として普及が進むと予想されている
MPCは一見複雑な技術ですが、その本質は「大切なものを分散して管理することで、より安全に守る」というシンプルな考え方に基づいています。仮想通貨の世界では、ハッキングや詐欺による被害が後を絶ちません。そうした中で、MPCはセキュリティを根本から改善する技術として注目されています。
MPCウォレットは、特に「シードフレーズの管理が不安」「セキュリティを高めたいけど複雑なことはしたくない」という方におすすめです。ZenGoのような使いやすいサービスも登場しており、仮想通貨管理のハードルは確実に下がっています。
ただし、MPCにもデメリットはあります。サービス提供者への依存が生じる点、まだ対応サービスが限られている点などは、ウォレット選びの際に考慮すべきでしょう。自分の資産規模やリスク許容度、利用したい機能などを考えて、最適なウォレットを選択することが大切です。
仮想通貨のセキュリティ技術は日々進化しています。MPCに限らず、新しい技術やサービスに関心を持ち、適切な情報収集を続けることが、安全な仮想通貨管理につながります。

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